「支援制度はある。でも、必要な人に“届く”とは限らないんです」。そう語るのは、LivEQuality HUB(以下LQHUB)で居住支援コーディネーターです。
名古屋市を拠点に活動するLQHUBは、配偶者からの暴力(DV)や離婚前の別居などによって住まいを失った女性と子どもたちに寄り添ってきました。彼女たちは、暴力から逃れた先で、新たな住まいを確保し、生活を立て直すという極めて困難なプロセスを歩まなければなりません。しかし日本では、性別役割分業を前提とした制度や慣習が根強く残っており、女性の経済的自立にはいまだ高いハードルが存在します。
こうした中、LQHUBは「住まいを失うことをきっかけとした負の連鎖」を断ち切るために、多機関連携のもとで、柔軟な条件での住まい探しや入居支援を行っています。理解があり、特別な料金設定で住まいを提供する大家さんと連携し、住まいを確保、入居後も定期的な面談を通じて、困りごとに応じた支援機関へのつなぎや同行支援を行い、親子が様々な信頼できるつながりを育むことも含めて伴走を続けます。
現場で明らかになってきたのは、「離婚が成立していないが、事実上ひとり親」として暮らすプレシングルマザーたちの存在です。LQHUBの相談者でも相当数を占める彼女たちは、児童扶養手当など主要なひとり親支援制度の対象外とされることが多く、生活支援や就労支援にもアクセスできない現状に置かれています。さらに日本の制度は「申請主義」に基づいており、情報を得て、自ら困りごとを把握し、申請することが前提です。しかし、多忙や体調不良、偏見への恐れなどによって、それすら叶わない人も少なくありません。
「『あなたは対象外です』と言われ、諦めてしまう人も多い。でも、知っていたら助かった人がきっといます」。居住コーディネーターの方の言葉には、制度の設計と現場のリアルの間にある深いギャップへの危機感が込められています。
LQHUBでは現在、そうしたプレシングルマザーの困難を社会全体で支える仕組みに変えていくべく、2つの方向から取り組みを進めています。ひとつは、これまでの実践で培った支援方法を形式知化し、か口でで応用できるモデルとして展開していくこと。もうひとつは、児童扶養手当の支給基準の見直しなど、制度の壁そのものを変える政策提言の活動です。
この取り組みを大きく後押ししているのが、YUIみらいプロジェクトの助成です。LQHUBは設立間もない団体でありながら、支援の現場を担うスタッフと、業務整理や標準化を担うバックオフィスとの連携体制が整っています。相談員の持つ知識や経験を、ドキュメンテーションに強みを持つスタッフが丁寧にヒアリング・整理し、支援の属人化を防ぎながら組織の知見として蓄積。それはすでに新規スタッフのOJTにも活用されており、持続可能な支援体制の土台となっています。
「制度がある」から「制度が届く」社会へ。その実現に向けて、現場に根ざしながら、制度を超える挑戦を続けるLivEQuality HUBの取り組みを、多くの方に知って頂けたらと思います。